まだまだ寒い2月の晴れた日曜日、
今回、『ミステリヤ・ブッフ』の公演チラシとポスターを作っていただいた、梅川茜さん(グラフィックデザイン担当)と、寺下健太さん(木工イメージ担当)をお招きして、まつもと演劇工場6期のメンバーが制作にまつわるお話を聞いてみました。
―― 今回の『ミステリヤ・ブッフ』はロシア革命が大きなテーマですが、“革命”のイメージを温かみのある木工作品 を合わせるのが大変だったのではないかなと思ったのですが、最初に話を聞いた時にどう思いました?
梅川「加藤さんからイメージを聞いて2人で色々話しながら、台本読みながらその場でラフを書いてお互い見せ合いました。
洪水が結構大きいモチーフだから、最初、撮影に水を使いたいと思ったのですが、撮影が大変になるので、どうしようかと話したりもしました。」
寺下「僕が作る時にどうしようと思ったのは、これまで 『GULLIVER』(2016年3月上演)と『ケンジ旅行記』(2017年3月上演)のチラシ を作成しましたが、ガリバー旅行記だったり宮沢賢治だったりと、一般的にすごく知られているお話だから、聞いた時点で思い浮かぶ絵が大体共通してありますよね。
今回そのようなものがない中で作っていくのは、どうイメージを提示していったらいいか結構迷いました。」
―― 今回の『ミステリヤ・ブッフ』のテーマである“ロシア革命”って、勉強してきている人もいれば、知らない方も色々いて、私達も、皆さんが知らない中でどう伝えたらいいかと困っている中で先行してやっていただいたのは、相当大変だったんじゃないかと…
梅川「原作を喜劇と思わないで読んでいて。今の時代の私達からすると、最後に希望を持って読めなくて、すごい暗いイメージに感じました。ですので、これが喜劇なんだと腑に落ちなくて…」
寺下「どの部分が喜劇なのだと読めずにね。」
梅川「今の時代からすると、繰り返される嫌なこというテーマを描写されているみたいな 。」
―― 私達もまさに今、これを笑い飛ばすにはどうしたらいいんだろうと悩んでます。
ぐるっと回っていることを知っている私たちが、今何を表現できるのかを考えろと加藤さんには言われてて、難しい…
梅川「難しいですよね。だからそこを考えなきゃいけないんだって、その時に気づかなくて
加藤さんが喜劇とかドタバタとかって言うけれど、『えっでもこの話ってさあ…』と。」
寺下「原作を読んでも『どこに喜劇的な要素を?』と言うのがね」
―― まさにそんな中で、今回こういった色合いに落ち着いていった経緯は?
寺下「加藤さんが、“お祭り騒ぎ”とかそういった賑やかな感じに凄くしたいというのを言っていました。だけど、僕の作るものは材料が木材なので、色の幅が少なく、限定されたイメージになりがちなんですよね。動きや賑やかさみたいなものは出し辛いみたいで。
今回、文字組のイメージでいこうと決まった時、僕の中では普段作っていく延長で考えてしまうので、木の色になってしまうんですよ。
でも、梅川さんが一緒にイメージを考えて下さるので、本当に幅が広がりますね。自分でやるのと違って。」
梅川「ラフを考えるときに、加藤さんのイメージの一つである“ロシアアヴァンギャルド”をどう出すかという話になって、ロシアの文字はちょっと特徴あるよねという話が出て。文字を積み上げて、周りでミギレイとウスギタナイ色んな登場人物を、ミックスする。
人形を作る時、寺下くんは日頃労働者系の人達(この作品で言うウスギタナイ)は作っているけれど、逆のミギレイな方の登場人物に成り得るものを、今まで作ってなかった。」
寺下「そうですね」
梅川「ミギレイはどうしようかと思っていた中、加藤さんがお嬢さんがいいなみたいな。それで結果こうなったんだけど…」
寺下「お嬢さんは一番苦労しました(笑)」
文字を積み重ねることが決まったものの、木目だと、加藤さんの「ドタバタ感」というイメージに合わないと感じた二人は、ラフな感じも欲しかったのでと、古道具屋さんに行って古材を見つけてくるという話に行き着きます。
梅川「実は、この文字の色は古道具屋で買った家財の色をそのまま使っているんです。」
寺下「切りだして使いました!」
梅川「古い家具を切りだして販売などしている燕(つばくろ)さんの倉庫の中とかに行ったんですけど、(色つきの家財があまり)無かったんです。私たちのイメージは、ペンキだったんですよ。水色系とか、緑とか、そうゆう寒色系の。」
寺下「元が家具なので、古びていてもやっぱり木肌な感じなんですよね、どうしても」
梅川「そんな中、赤色と白色と黒色は、運動会で使うサイコロから取りました。」
寺下「サイコロの黒い部分は赤に対して1個1個が小さいんですよ、6の面とか。
赤である1って大きいんですよ。黒の面積は小さいので、ツギハギで。
古道具なので赤とかも切りだすとボロボロボロボロ。なので、切り出して1回薄く剥いだものを重ね貼りして。『ふうっ。』て息とか吹くと飛んでいっちゃうので慎重に作成しました。」
―― 赤や白、緑などの色選びにも、何かイメージってありましたか?
梅川「やはり“ロシアアヴァンギャルド”ってイメージがありました。選んでいるときも、この色って違うよねとは話しながら選びました(笑)」
寺下:「『100%こういったものを作りたい』、とイメージを持って古道具屋に行った訳ではないので、お店にあるものからイメージを膨らませていきました。」
ーーでは、なぜ白背景にしようとしたんですか?また『ミステリヤ・ブッフ』というロゴが赤なのはなぜですか?
梅川「寺下くんの木工が出来たら私の家で寺下君と2人で相談しながら撮影したのですが、
最初、背景紙を白とか、オレンジっぽいちょっと薄めの赤、写真で撮ったら赤く見えるような紙を用意していたんですけど、出来あがったモノを見たら、背景が赤系だったらちょっと重たすぎるなと思って。
喜劇感が出ない。それで、赤背景は無くして、タイトルを赤にしました。
どこかを赤にしたいっていうのは最初に決まっていたんですよね。それはお互い共有していた。
木工が浮き立ってきた方がいいので、じゃあもう、潔く白背景にして、グラフィックデザインで赤の要素を入れていくようにしようかということまで決めて、撮影を。
チラシが縦なんですけど、立体物を普通に撮影したら横になっちゃう。縦配置はやっぱり物理的に無理なことって多いので。」
寺下「それこそ、ラフを書いた時には、その絵で描いてあるのでかなり無理な積み上げ方をしてしまっているので、最初それに準ずる並べ方をしていたんですけど…」
梅川「『Мистерия-буфф』というを文字列を再現してなるべく高く積む。
そして、登場人物がなるべく満遍なく文字のあたりに。でも、なんか崩れちゃうんだよね」
寺下「そうそうそう!意外と安定が悪くて、後半が結構大変。」
梅川「そう、息できないの。本当に、何回も落としちゃったからモノがボロボロになって、パン屋人形の持っているパンが取れちゃったりとか(笑)。
梅川「そして、年明けに撮影した写真やデザインを加藤さんに見ていただいたら、『ちょっとドタバタ感が足りない。』って言われて。しかもスケジュールが結構タイトになっちゃってて…」
寺下「入稿の日が見えてる、みたいな。」
ーー撮り直したんですか!?
梅川「はい、一日で。
撮り直た方がいいかなとは思っていたんですよ。光の感じとか。それは納得だったんですけど、「ドタバタ感って何だ…」と。
それで、最初は本来の『Мистерия-буфф』って綴りの並び順に準じて積んでいたんですけど、
もうそんな事言っていられない、文字も読めなくていいからって。Nとか倒してるし、Cとか奥に方針転換して。その中に、この人形達をそうっと置いてセットするも、どうしても倒れちゃうので、息を潜めて。積むだけ1日かかっちゃったって感じですよね。」
寺下「逆に積むことが目的化してましたもんね。」
そこで最初のデザインにはなかった、鞄、船、ノコギリ、人が追加されたそうです。
―― もしかして、この“人”は『ケンジ旅行記』の時の?
梅川「あ、この“人”は『ケンジ旅行記』の時とは違うものです。あれは大分大きかったので。」
寺下「“人”は元々作っていたものです。
ファクトリーに関わる前から、旅人とかのモチーフを作っていたんですよ。
2015年のファクトリーのデザイナー募集を見た時に、箱(劇場)があってそこで上演しますというのではなくて、町に出て行くとか旅する劇場とかというテーマが書いてあって。
これは僕が作っているものの目指しているところに通ずる所があるなと思う所があったんです。だから応募書類にもそういうモチーフの資料を送りました。」
梅川「船は『GULLIVER』の時の。でも、あの時は船の一部をちょっと見せただけだから、今回は全体が見えている。」
今回一緒に制作する中で、2年目ということでお互い踏み込めた制作ができたと、お二人は語ってくれました。
寺下「僕は、どちらかというと“静的”なもの、動きがあまりないものを作ることが多いので、宮沢賢治とかはイメージ的にも静的で “すん” と立っている感じでした。
今回の加藤さんから全体的に動きがあるものにしたいと話しを聞いたので、“動き”というのを拘ったところはありますね。
作る前にラフとか描くんですけど、僕の絵は作る前提で描くので、人形を書いても関節が離れて腕が独立していて、設計図的なニュアンスが少しあるんです。
逆に梅川さんは割とぐにゃぐにゃというか、『腕がここまで曲がってる!?』みたいな。」
梅川「寺下君は胴体をまず描くけど、私は手足を先に書くので。私が描いたラフとか、手足しか無くて。
手足・表情・手の動きがまずあって、付け足すように胴体があって、それを寺下君に見せながら『こういうのはどうかな』とか相談して。」
寺下「そういうイメージが来た時、『これはどうやってやればいいんだ?!絶対立たないこれ!』みたいな(笑)
やっぱり2年目にして段取りとかが分かってきて、すごくその辺はやりやすかったですね。」
梅川「関わるまで(存在は)知ってはいたんですけど、実際に本人とコミュニケーションとったことは無かったんですよね。
だから、最初は一緒に作る上で『こういう風にしてよ。』とか言えない。工芸作家としての世界観や作品への接し方とかあるし、それを全然知らない私が、『こうしようこうしよう』とか言われたらカチンとくるんじゃないかとか思っていました。
でも、実際にコミュニケーションを取ったらこんなに気さくな、結構ぶっちゃけて話してくる人なんだなあと(笑)こういうのも大事なんだなと。だから、身体のバランスとか出鱈目なラフとかも描いてみて。」
関係性も変化して展開しながら作っていく過程は、演劇も同じで、やり直して良くなるのだったら何度もやり直す。妥協してはいけない。だからジャンルは違えども同じクリエイションとして通じるものがあるんだなと思いました。
―― 最後に、今回の『ミステリヤ・ブッフ』に期待していることは何ですか?
寺下「今回作る上でどういう表現にしていけばいいのかとても悩んだので、どんなお芝居になるのか、今回凄く楽しみですね。」
梅川「デザインに寄り添うような、こういうお芝居じゃなきゃみたいなのは全然無くて。
自分が課題に対してどう応えていくかということに精一杯だったので、だから単純に裏切られたらそれはそれで楽しいし、こんなところをこんな風に出来るんだとか、多分感動すると思うので、そういうのを見るのがすごく楽しみ。」
―― 私達も稽古でまさに「ドタバタ感」を要求されていて、舞台上にもっと小道具を増やそうとかちょうど言われたところ。「だから加藤さんの中ではずっとイメージがあるんだなと確認できたのは嬉しいことでした。
木目のひとつひとつにも拘りがあるから、私達も芝居を作る上で積み重ねなきゃというのも再確認出来ました!
二人「楽しみにしてます。」
お二人は持ってきていただいた今回のチラシから飛び出てきたお人形やケルト文字のブロックをそのまま芸術館に飾ってくださいました。
梅川さんと寺下さんも作る上でお互いのイメージがどんどん重なる中で、何度もアイデアを練り直し、やり直し、こうして形になっていく話を聞いて、
まさに私たちは、今、皆のイメージがバラバラが中、重なっていく途中…そんな過程の中で、面白いものを見つけられたら、私たちのドタバタの結末を見届けもらえたら…と強く思い、私たちは再び稽古場に戻るのでした。
さて、皆さん、今一度、『ミステリヤ・ブッフ』のチラシをもう一度ご覧ください。
ひとつ、ひとつ物語がございます。
そして、芸術館のロビーには実際にこちらのお人形さんとブロックがお出迎えしてくださいます!ぜひ、生でお人形さんたちの息づかいを体感ください。
梅川さん、寺下さん、本当に貴重なお話ありがとうございました。
梅川茜
1981年長野県松本市生まれ。
2000年に渡仏し、2002年職業訓練学校Lycee Professionnel Ferdinand Revoul Cartonage科を修了。 帰国後に制作活動を始め、松本を中心に東京や大阪、兵庫、京都、宇陀、豊橋、新潟などで個展やグループ展、イベント参加などを行う。 2010年からは松本の女性作家6人によるユニットPomPomの一員としても活動を開始。 2015年からは3人のメンバーとともに雷鳥モチーフの張子の土産品を半年毎発表。 現在、松本市にあるアトリエで箱を作ったり、手動の印刷機で印刷したり、グラフィックデザインをしたりと、紙にまつわることを中心に活動中。 まつもと演劇工場には、2016年から現在まで、チラシ作成に携わっている。
寺下 健太
松本市出身。
2006年 長野県松本技術専門校木材工芸科卒
2006年~ クラフトフェアまつもと出展
2009年 丹波の森ウッドクラフト展 入選
長野県工芸美術展新人賞
ギャラリー、百貨店にて個展、企画展に出展。
工房KEN/NELとして手彫りのタッチや木目を活かした木工品、オブジェなどを製作している。
まつもと演劇工場には、2015年の宣伝デザイナー公募にて選定されてから現在まで、チラシ作成に携わっている。
ミステリヤ・ブッフについての詳細は「公演情報」ページをご参照ください。