「ガリバー旅行記」と言えば幼い頃に読んだ絵本――ガリバーが小人の国、巨人の国に紛れ込んだ時のイラストを覚えている方も多いのではないでしょうか。
実際、児童文学では第一部と第二部のみが収録される傾向にあり、原作に三部と四部が存在している事を知らない方も多いかもしれません。

しかしその「子供向け」とされているガリバー旅行記ですが、原作を読むと痛烈な風刺をもつ物語ということがわかります。
作者ジョナサン・スウィフトは「風刺作家」です。正式な題名は、『船医から始まり後に複数の船の船長となったレミュエル・ガリヴァーによる、世界の諸僻地への旅行記四篇』 （"Travels into Several Remote Nations of the World, in Four Parts. By Lemuel Gulliver, First a Surgeon, and then a Captain of several Ships"）
リリパット国では、小さいくせにいばりくさっている皇帝や国内の騒動を通して当時のイギリスの政党対立を風刺しています。
ラピュータでは自然科学研究の行過ぎや思弁にふける学者への風刺。そして第四部の「ヤフー」は、まさしく我々「人間」を表わしています。

「ガリバー旅行記」は、深刻な人間風刺として、また楽しい冒険的旅行記として、子供にもおとなにも愛読される、近代小説史の発端を飾る特異な作品と言えます。