これから公演にかけて、今期新しく、まつもと演劇工場に加わったメンバーを中心として「ケンジ旅行記」ならぬ「ケンジ制作記」をお届けして参りたいと思います。
どうぞおたのしみに!
こんにちは、演劇工場五期生の深沢です。まつもと演劇工場では三期(マツモト君が走る 風の劇場が笑う)から参加しています。
さて、三月公演は宮沢賢治がモチーフとなります。まつもと演劇工場が宮沢賢治について取り組む、と直さん(工場長)から聞いたのは実は結構前で、確か去年の公演後、つまり一年前だったような気がします。もしかしたらもっと前だったかもしれません。
賢治作品、僕は学生の頃に読んだ記憶はあったのですが(教科書に載っていますしね)、そこから先はご無沙汰をしていました。
数多くの詩やお話を書いてきた人というのはわかるのですが、「どんな人?」と、あらためて聞かれると、なかなかひと言で言い表すのが難しかったというのが本音でした。まずは国語事典を引いてみました。
みやざわ‐けんじ【宮沢賢治】
詩人、童話作家。岩手県出身。盛岡高等農学校卒。農業研究家・農業指導者として活躍するかたわら、宗教心と科学精神に裏づけられた独特な詩や童話を創作。死後、谷川徹三らにより世に出されて名声を得た。詩「雨ニモマケズ」は特に有名。詩集に「春と修羅」、童話に「注文の多い料理店」 「風の又三郎」 「銀河鉄道の夜」など。明治二九~昭和八年(一八九六−一九三三)
小学館 精選版 日本国語大辞典
実際のところ、書き直しまで調べて含めて作者の意図を推し量ろうとすると、賢治が生み出した物語の迷宮に入ってしまう感じもしました。「ここの文章はいついつぐらいに書かれて後の稿では削られているからこれこれこういう意図があったんだろう」という具合です。時間がいくらあっても足りません。宮沢賢治の研究だけでジャンルが成り立つのも納得しました。
さらに、私たちが取り組むのは演劇です。宮沢賢治は言葉で物語を綴っていた人ですから、その文字として書かれた言葉を身体にどう取り入れて発するのかを考えなくてはいけません。
今回、アウトリーチ公演でも宮沢賢治の「注文の多い料理店」と「革トランク」を扱い、僕も一員として参加をしましたが、その『ケンジの言葉をどう身体に取り入れて発するのか』というのはなかなか難しいなとつくづく思いました。
そのとき、風がどうと吹いてきて、草はいちめん波だち、別当は、急にていねいなおじぎをしました。
どんぐりと山猫風がどうと吹いてきて、草はざわざわ、木の葉はかさかさ、木はごとんごとんと鳴りました。
注文の多い料理店そのとき風がどうと吹いて来て教室のガラス戸はみんながたがた鳴り、学校のうしろの山の萱や栗の木はみんな変に青じろくなってゆれ、教室のなかのこどもはなんだかにやっとわらってすこしうごいたようでした。
風の又三郎
賢治作品の特徴ともされている「オノマトペ」。『風がどうと吹いてきて』みたいなコトバを語るとき、どのように発すれば伝わるのか。書き言葉を身体で演じることの難しさを感じました。
と同時に今から九十余年ぐらい昔に賢治が綴った書いた言葉を口から発することの面白さもありました。たぶん、賢治も推敲する時は一人ブツブツ「どうと」とか呟いていたんじゃないかな、とか。
さて、三月の公演まではあと一ヶ月半強。昨年9月から始まった長い旅行の終着駅も徐々に見えてきました。
うまく風を吹かせることができるように願いつつ、今は作品に取り組んでいきたいと思います。
(ゆたか)
ケンジ旅行記についての詳細は「公演情報」ページをご参照ください。